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十日日記


2004-09-27

Link ミトコンドリアの知識を改訂する

ミトコンドリアの謎 河野重行『ミトコンドリアの謎』(講談社現代新書、1999年)のおかげで、高校時代のまま停止していた知識を改訂することができた。それまでの知識に注釈を入れるかたちで改訂の内容を記す。

ミトコンドリアは真核生物の細胞小器官のひとつで二重膜構造をし、(a)クリステと呼ばれる多くのヒダを有したカプセルみたいな物体である。細胞内呼吸をつかさどり、ATPを合成している。(b)核とは別に独自のDNAをもっており、(c)母性遺伝することが知られている。(d)もともとは好気性細菌の一種で、ラン藻類と共生するようになったようだ。

(a)ミトコンドリアというと、まさにリンク先にあるような画像を私は想像していた。しかし実際にはアメーバのように形態変化(p.44)をし、ヘビのように細長くなったりもする。また、酵母のミトコンドリアは巨大化するという(p.51)ちなみに、MitochondriaがMitochondrionの複数形であることをリンク先で初めて知った。

(b)ミトコンドリアのDNAは裸で存在していると思っていたのだが、実際にはタンパク質によって組織化されており、ミトコンドリア核を形成している(p.147)。葉緑体などの色素体についても同様である。ミトコンドリアのDNA(mtDNA)量は小さいが、DNAに占める遺伝子の割合は大きく無駄が少ない(p.117)。mtDNAは核DNAよりも5〜10倍ほど変異率が高いため、ミトコンドリア遺伝子の変異による遺伝病(p.125)も存在する(参照:難病情報センター「ミトコンドリア病」)。

(c)動物のミトコンドリアは母性遺伝するが、父性遺伝するものもある。裸子植物の多くはそうであるらしい(p.163)。ただし、この本ではマツのmtDNAを父性遺伝としているが、マツで父性遺伝するのは葉緑体で、ミトコンドリアは母性遺伝であるようだ(参照:千葉大進化系統学研究室)。葉緑体はマメ科植物など両性遺伝するものもある(p.160)。大事なのは母性遺伝か父性遺伝かということではなく、いずれにせよ片方の遺伝子が失われるという点だ。この現象が、「性」が生まれる鍵となるという。

有性生殖の無性生殖に対する利点として、古典的には環境の変化に対して強いという説明がなされる。この説明の難点は、環境の変化が生物寿命に対して長すぎるということだ。無性生殖は有性生殖の2倍の生殖効率をもつから、環境がゆっくり変化しているあいだに有性生殖を圧倒してしまうだろう(p.178)。これに代わる説明として、有性生殖が疾病に対する適応だという説がある(p.180)。有性生殖は、絶えず変異するウィルスに対抗するための1つの手段になりうる。

有性生殖する生物でも、性は2種類しかない。この説明にミトコンドリアの母性遺伝をからめ、性の誕生は遺伝子の競合回避であるとする仮説がある。2つのミトコンドリアがともに遺伝子を残そうとすると競合(お互いにDNA分解酵素を出すなど)がはたらき、肝心の細胞自身に被害を与える危険がある。そこで、mtDNAを放棄するオスとmtDNAを維持するメスとに分かれることで競合を回避する、というものだ(p.190)。

ここで話が少し逸れる。1960年代から、異系統のショウジョウバエを交配させるとメスの不妊など突然変異が多発することが知られてきた。その後の研究により、原因が特定のオスの遺伝子(P因子)であることがわかっている。このP因子は、ショウジョウバエがもともともっていたものではない。ダニに寄生していた細菌のDNAがショウジョウバエにも寄生して広がっていった(水平伝播、水平転移)ものだ。拡散のスピードは早く、1950年代にフロリダで現われたP因子は60年代には北米全土に広がり、70年代には西側諸国のほとんどに、さらに80年代には全世界にまで拡散した(p.207)。この拡散の速さは、P因子が有性生殖集団に寄生したからである。優性遺伝することで、どんどん増えていけるからだ。

P因子のようなパラサイトDNAが性を発生させたという仮説もある。寄生した先が無性生殖ならば、パラサイトDNAが性を付与するようにはたらく。この仮説は、本来は利己的DNAであった大腸菌のFプラスミドが大腸菌に性をもたらしたことから支持されるという(p.213)。ミトコンドリアにもプラスミドが発見されており、ミトコンドリアに融合能力を付与している。

(d)共生説への古典的な批判として、独立の細菌であったはずのミトコンドリアのゲノムが小さいのはなぜか、というものがあった。その後、mtDNAが葉緑体や核でも見つかるなど細胞内では頻繁に遺伝子転移が行なわれていることが確認され(p.227)、ミトコンドリアのゲノムは核に転移することで小さくなったと解釈することが可能になった。しかし、その必然性については説明できない。また、「ATPを過剰に生産する好気性細菌」と「ATPが足りないラン藻類」との共生という説では、そもそも後者のような生物が存在しうるのかどうかが怪しい。

このことをうまく説明する新たな仮説として、共生体は好気性細菌ではなく通性嫌気性細菌だったのではないかとするものがある(p.232)。仮に、水素と二酸化炭素を老廃物として放出する細菌と、水素と二酸化炭素を必要とする細菌が嫌気的環境にいたとしよう。後者の細菌(宿主)が前者(共生体)を細胞内に取り込めば共生が誕生するが、それでは共生体が外界から栄養を吸収できなくなる。そこで遺伝子転移によって宿主の膜構造を変化させ、宿主から共生体に栄養が送れるようにする(p.235)。

――こんなところだろうか。著者は光学顕微鏡への愛着が大きいようで、最初のほうで5ページ近くにわたってアッベとカールツァイスによるレンズの改良について触れられている。このアッベはアッベ数でおなじみの人だが、カールツァイスに関わっていたとは知らなかった。

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