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十日日記


2004-12-19

Link 『原理主義とは何か』を読んで

初秋に帰省しているとき、梅田北の梅田ガーデンシネマで上映されていた『華氏911』を見に行った。同じく上映中だった『誰も知らない』という文句を見たときに既視感があったのだが、あとで思い出すに伊東ゆかりのヒット曲(1972)であった。ちなみに、伊東ゆかり「誰も知らない」は欧陽菲菲「雨のエアポート」によく似ている。どちらも筒美京平の作曲である。

それはともかく『華氏911』に対して、私は前作『ボウリング・フォー・コロンバイン』ほどには楽しめなかった。前作の場合には恐怖で成り立っているアメリカ社会を遠巻きに眺めることができたのだが、今度の作品はイラク問題に関して無関係ではないだけに、見ていて気が重かったのだろう。

原理主義とは何か 東京に戻ってきて古本屋めぐりをしているときに見つけた1冊が、小川忠『原理主義とは何か――アメリカ、中東から日本まで』(講談社現代新書、2003年)だった。すぐに読んだものの結論に関して腑に落ちず、思案しているあいだに書く機会を逸してしまった。

同書では、まず「原理主義」を定義し特徴づけるところからはじまる。その後、原理主義発祥の地である米国、さらにイスラム穏健派の大国エジプト、イスラム革命を果たしたイランと見ていき、つづけてインド・インドネシア・日本に存在する原理主義的思想を比較する。最後に「原理主義を越えるために」と題して、宗教紛争抑止のために何が必要かを述べている。

上でも触れたとおり、「原理主義」とはもともとは米国プロテスタントの過激な聖書崇拝者たちを指す用語である。しかし1970年代以降には、もう少し広義に原理主義をとらえることによって政治宗教運動の国際比較に用いようとしたシカゴ大学のプロジェクトが発足した。そこでは、原理主義のイデオロギー的特徴として次の5点が挙げられているという。(1)近代化による宗教危機に対する反応、(2)選択的な教義の構築、(3)善悪2言論的な世界観、(4)聖典の無謬性の主張、(5)終末観的世界認識と救世思想。さらに組織的特徴として、(a)選民思想、(b)組織のウチとソトの明確な区別、(c)カリスマ的な指導者の存在、(d)厳格な規律、行動規範の4点が挙げられている(p.24)。以上だけを見ると、まるでカルト宗教の特徴づけのようだ。

(1)に対する補足説明として得心したのは、政教分離をかかげる近代国民国家を建設しようとする世俗ナショナリズムもまた一種の宗教のようなものであり、それは非西洋世界の側からすると西洋による宗教の押しつけのように映る(p.26)――という指摘だ。むかしの例をあげると「民法出でて忠孝亡ぶ」というようなものだろう。(2)の例としては、米国のキリスト教原理主義団体が「中絶禁止」にとりわけ固執している点がある。

第2章は米国での原理主義対リベラルの抗争史で、これといった注目すべき点があるわけではない。原理主義者たちがハーバード大学長のエリオットを批判するさまなどは、日本で東大教授が進歩派知識人などと批判された構図を思い出させる。第3章・第4章は、非西欧世界が近代化を行なう上で異なる路線をとった2国(エジプト・イラン)についてで、この部分に私は強い関心を抱いた。

1888年、エジプトに帰国したアブドゥフは、性急な民族主義に反対の立場をとる。なぜなら、アブドゥフには、エジプトのように伝統的な宗教意識が深く社会に浸透している国に、植民地化で進められようとしていた近代的な政教分離型の政治制度、法律をそのまま移植するのは無理があると思われたからだ。……中略……そこで彼がとったのは、イスラームに存在する法、政治概念を近代制度に合致するように再解釈を試みることだった(p.89)。

つまりイスラム教の既成概念のうち利用できる部分を利用しようというもので、宗教は統治ための道具となっている。これは現在のアメリカ政府のユダヤ・キリスト教利用も似たようなものだと思うし、この点が「イスラーム法学者による支配」というイスラム革命の統治理論とは異なる方向である。第5章以降もいろいろあるが省略。

さて問題は第8章である。テロは経済復興では克服できないという考えが説明され、9.11の実行犯やテロリストの多くが中産階級以上の出であることが理由として挙げられている。そして、「誇り」の問題を考えなくてはならないという。「彼らの傷ついた自尊心を回復させるための方策を講じなければ問題の根本的な解決にはならない」(p.255)。

この点についてはあまり納得していない。著者が述べているように、アメリカでの原理主義の誕生は産業化によって都市民の失業者が増大し社会不安が増したところに求められる。そこで立ち上がる(原理主義を推進する)者があるていど裕福な者であるのは自然ではなかろうか。あまりの貧困にあえいでいれば、そもそも立ち上がる気力が起こらない。そうした恵まれない人たちのための利他的行動であるとテロリストたちは自己認識しているわけで、仮に国民経済全体が裕福になっていたとしたら行動を起こすだろうか。起こしたとして、それは国民から支持されるだろうか。

「誇り」の問題を軽視しているわけではない。むしろ私はこの点には強い興味を抱いている。山本義隆『磁力重力の発見』(みすず書房、2003年)でおもしろかったのは前半部分で、それは当時の知識・支配層だった教会関係者が先進のイスラム文明を目の当たりにしてどう意識したかという点について触れられているからだ。こちらの書籍は第3巻をまだ読んでいないので、書くのは年明けになろう。

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