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十日日記


2005-03-13

Link ひさかたぶりに推奨できる岩波新書

しばらく前、数学に興味のあった中高生の多くが読んでいたと思われる書籍に遠山啓『無限と連続』(岩波新書、1952年)がある。この書籍の優れたところは、難易度・厚さが手ごろで、かつ値段が安い(ここが重要)点にあった。彌永昌吉『数の体系』(岩波新書、1972年)以来、数学入門書として優れた岩波新書は出ていないと思っていたのだが、嬉しいことにこの認識は誤りだった。志賀浩二『無限のなかの数学』(岩波新書、1995年)はよい出来だ。以下、簡単に紹介しつつ感想を述べよう。

同書は、「無限」を主題とした4章仕立てになっている。導入の第1章は無限級数・無理数・無限集合で、無難な内容。光るのは第2章「円と無限」と第3章「無限への働きかけ」である。

第2章では、主に三角関数と冪級数展開とを扱う。関数y = f(x)のように表わすことが有効なのはxを代入したときにyの値がはっきりとわかる整式の場合であって、y = sin xなどではxにある値を代入してもyの数値がわからず、算術との結びつきがない。ところがこれが多項式で表わせれば、数値計算することができる――というように級数展開の動機付けを行なっている。

三角関数天文学の要請によって古代から研究されてきたのが、弦の長さと弧長との関係である。sinを日本語で正弦というが、その語義について私はちゃんと考えたことがなかった。弧長に対応する弦(半弦)の長さを示しているというのは、同書で初めて気がつかされたことだ。せいぜい積分でしか使わないarcsinがなぜ生まれてきたのか疑問に思っていたのだけれど、上の理解があれば腑に落ちる。曲線の長さから直線の長さを出力する関数より、直線から曲線の長さを出す関数のほうが使いやすい(p.85)。

三角関数の級数展開は、歴史的にはarctanが最も早かったようだ。arctanやarcsinの積分は、かなり古くから(たしかarctanのほうはギリシャ時代から)知られていた。\int_0^x \frac{dt}{\sqrt{1-t^2}で得られることがわかったあとは、無理関数の展開が検討される。そこでニュートン級数が生まれ、ニュートンはarcsinの展開を「逆に解く」ことでsinの冪級数展開を得たと著者は推測している。arctanの積分公式を相似を使って初等幾何的に求めるあたりはおもしろい。

つづく第3章は18世紀から19世紀にかけての数学で、オイラーによる「発見的」な冪級数の求めかた、そしてフーリエ級数。熱伝導方程式を導出したときフーリエ自身は熱素説に立脚していたのは知らなかった。この章で気に入ったのは、積分の思想的な側面「さまざまな現象に対しその平均的な性質を調べようとする視点」(p.161)という点を強調していることだ。期待値で積分が出てくると不思議そうな顔をする人がいるけれど、不思議どころかむしろ当然のことである。そのあとフーリエ級数の一意性の問題とカントールの紹介がある。

第4章は20世紀数学で、ルベーグ積分や関数空間、代数学の話。ただ、これだけの内容を24ページで表わすのは不可能事だろう。どうしても結果のみの紹介になってしまうので、他書に譲ってもよかったのではないかと思う。

tan()の冪級数展開逆に、触れてもよかったのにと思うのは無限連分数表示である。実数が極限と深く関係しているのを体感する手だてとして無限連分数が使えるという話を、むかし竹内啓がしていた。いまの中学・高校では無限連分数はあまりやらないように思うが、ここから見えてくる規則性の中には美しいものもある。たとえばtanの級数展開がarctanと違って非常に込み入っていることが記されている(p.109)。

tan()の連分数展開しかし連分数で展開すれば、右のようにわりときれいなかたちになる。

このほかの多種多様な数値・関数を連分数表示したサイトとしてSugimoto氏による「連分数展開」があるので参照されたい。いろいろな関数についてはfunctions.wolfram.comに収集されている。ついでに、「今までに例を見ないほどの積分パワー」(サイト紹介文より)で原始関数を計算してくれるThe Wolfram Integratorも便利だ。

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