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十日日記


2008-02-10

Link 麻酔のはなし

諏訪邦夫『麻酔の科学』(講談社ブルーバックス、1993年)を読んだ。著者にはパソコン関係の著作もあって、私はそちらの方面しか読んだことがなかった。しかし、本来の専門は麻酔学である。たまたま同書を古本屋で見かけたので、奇貨居くべしとばかりに購入した。

著者は昭和天皇の手術に立ち会っており、その様子や経過について触れられている第11章が「さわり」なのかもしれない。それにしても、本書の初刷は1989年1月であり、実にタイミングが悪かった。

麻酔については完全に素人なので、けっこう面白く読めた。たとえば近代麻酔学の初期に発見された笑気(亜酸化窒素)は現役で使用されているとか、希ガスのキセノンはかなり理想的な性質をもった麻酔ガスだが高価なのが欠点だ、云々。さらに驚いたのは、麻酔作用のメカニズムは未だによくわかっていないという点だ。といっても1993年当時なので現在はだいぶ解明されているのかもしれないが、それなら『毛沢東思想のハリ』もありだなあと思ったりした。

麻酔とは関係なく感心したくだりは2カ所ある。1つは、「患者をよく見ろ」という俗説に対する反論を行なうpp.139-141。

“患者をよくみる”とか“患者の言い分をきく”という言葉に、だまされてはいけません。……たしかに、昔の医師は患者をよく観察し、患者の言い分をよくききました。情報源はそれしかなかったからです。レントゲンのなかった時代には、医師は聴診器で音をきき、手でお腹を探るよりほかにできることがなかった、ということです。……

“患者をよくみろ”という医学には、もっと重大な欠陥があります。経験を重んじ、論理や知識に基づかないために、「人に教える」のが困難なことです。……昔の医師は、“患者を10人殺してようやく一人前”などといいました。……しかし、こんなことは現代社会ではとうてい許されません。患者を犠牲にせずに、学生や若い医師に短い期間で医療を教えるには、医学が経験ではなく、正確な知識に基づいた学問として、がっちりと論理的に構成されたものにならなくてはなりません。

もう1カ所は、著者が教育用のシミュレーションプログラムを作成したというpp.118-119にかけて。

プログラムを制作する過程で重要な発見がありました。それは、この種のプログラムは「作る」よりも、それを「使えるものにする」のが大変で、そこに時間もエネルギーも必要だということです。具体的にいうと、プログラムを制作していちおう動くようにするのに要した期間は2カ月足らずでしたが、それを改良し満足できるものにまで完成するには1年以上かかったのです。しかも、この改良は私個人の努力では不可能で、実際に学生や若い医師が使用して、批評してくれたり注文をつけてくれたりして初めて可能だったことです。

著者はPC-9801愛好家だったと記憶しているから、おそらくN88 BASICあたりで作成したのだろう。この経験は、パソコン関係の著作に生きている。

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