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十日日記


2010-06-27

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多文化世界 グラッドウェル『天才!――成功する人々の法則』(講談社、2009年)で紹介されていた国民性を表す尺度「ホフステッドの次元」に興味を抱いた。そこで手に取ったのがG. ホフステード『多文化世界』(有斐閣、1995年)である。同書は、著者らが1960年代末から70年代にかけて世界各地のIBM従業員を対象に実施した聞き取り調査を元にした研究書『経営文化の国際比較』(1980年)を、一般向けに読みやすくしたものだ。

この研究がすばらしいのは、各国の国民性を表す指標として4つの尺度(のちに別の研究グループによって5つめの尺度が見つかる)を統計的に見出し、世界各国の国民性を定量化したことにある。次元が4つなので、それぞれの尺度についてクロス分析しても6枚の絵ですむ。

第2章で紹介される権力格差指標(Power Distance Index)とは、「それぞれの国の制度や組織において、権力の弱い成因が、権力が不平等に分布している状態を予期し、受け入れている程度」(p.27)である。同書は「権威は、服従する者がいてこそ存続する」と指摘し、権力の弱い側の価値体系を探ろうとした。欧州においてはラテン諸国が高く、ゲルマン諸国が低い。このことは、宗教改革がラテン諸国では実現しなかった(ローマ教会の権威が保たれた)ことと関係するのかもしれない。

一般に、学歴や地位の低い社員ほど「権威主義的な」価値観を持つ。また、国民として権力格差が大きい国では、社会階級・教育水準・職業の違いによる権力格差は相対的に小さくなる。たとえば、労働者階級の親は中産階級の親よりも子供に対して従順さを求める。ただし、その程度はイタリア(PDI=50)よりもアメリカ(PDI=40)のほうが著しかった。

教育面に目を向けると、高PDI国では高等教育機関においても学生が教師に依存しつづけていることが多い。たとえばPh.Dを取得した学生が、指導教官と対等になるかどうかを考えてみるとよい。(これが反依存というかたちで表れることもある。アンチ○○という意識は、実際には○○への依存である。)また、体罰に対する容認度も高くなる。ここで思ったのは、高PDI国のほうが階級移動は達成されやすいかもしれない、ということだ。先に述べたとおり、高PDI国では階級や教育水準による権力格差は相対的に小さくなるからである。

政治においては、高PDI国は中央集権になる傾向がある。また、権力格差の大きい国の政治的スペクトルは、右も左も強力で、中間が弱い。これはまさに依存・共依存であると著者は指摘している。この箇所を読んだとき、外交政策に関する我が国(PDI=54)の世論を想起した。そして、民主主義の「輸出」に熱心なのは低PDI国だが、これは失敗に帰すだろうと予言している(p.38)。

2つめの次元は、続く第3章で導入される個人主義指標(Individualism)である。個人主義社会では、個人と個人の結びつきはゆるやかで、自分自身と肉親の面倒を見ればよいという考え方をする。一方の集団主義社会では、内集団を重視する。世界の主流は個人主義ではなく集団主義である。集団主義的な社会では、人間関係が職務よりも優先される(p.69)。権力格差はと個人主義とは逆相関する(フランスとベルギーを除く)のだが、PDIと異なり職種別の差がない。

第4章では、3つめの次元として男らしさの指標(Masculinity)が挙がっている。これを私は男女の不平等を示しているのかと誤解していたのだが、実際には少し違っていた。この指標は、その国全体としてのマッチョ観(たとえば協調よりも競争を優先する)を表している。高MAS国は製造業に強く、低MAS国はサービス業に強みを持つ、という。なお、日本は調査国中で最上位のスコア(MAS=95)となっており、権力格差とのクロス分析でも孤立している。このスコアは正直どうなのかと思わないでもない。調査対象がIBM社員となると、かなりマッチョな性格が集まったのではないか。

第5章では不確実性の回避指標(Uncertainty Avoidance Index)が取り上げられている。この数値が示すものは、「ある文化の成員が不確実な状況や未知の状況に対して脅威を感じる程度」だという。不安の感じやすさと言ってもよいかもしれない。高UAIの文化はストレスが高い。学生は構造化された学習の場を好み、正解にこだわる。また国家当局に対する市民の能力が低い。さらに、高UAI国の公務員は政治家に対して否定的な感情を抱く傾向がある。

章の冒頭ではドイツ(UAI=65)とイギリス(UAI=35)とを比較する事例が挙げられているのだが、日本の値は92とさらに高い。東アジア諸国のなかでは韓国も比較的高く(UAI=85)、日韓は端から見ると似たもの同士にしか見えないだろう。それよりも妙に納得したのは、香港(UAI=29)やシンガポール(UAI=18)といった華人のUAIの低さだ。彼らの柔軟さや生命力を見る思いがした。

『多文化世界』同書から学べることは、文化的な背景を無視した制度設計は望ましい結果を生まないだろうという点だ。たとえば我が国と北欧諸国とは正反対に近い性格をしているので、教育の現場にフィンランド方式を導入してもうまくいかないだろうし、北欧型の高福祉・高負担国家を目指しても失敗するだろう。脱官僚とか地方分権などと言っても、国民自身はその帰結を本当に理解した上で合意できるだろうか。

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