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十日日記


2010-12-16

Link 渋滞学

渋滞学 西成活裕『渋滞学』(新潮選書、2006年)は優れた科学啓蒙書である。紹介される事実も興味深いし、その背後にある理論についても触れている。

まずは事実のほうから。第2章では車の渋滞が扱われている。高速道路の渋滞原因のトップは何か。私はカーブかと思っていたのだが、実際には「サグ」と呼ばれる見えない上り坂なのだという。見えないために運転手はアクセルを踏まないため、スピードが自然と落ちる。これが積み重なって渋滞を招く。ちなみに、車間距離が40mを下回ると渋滞が発生しやすくなり、渋滞時には追い越し車線よりも走行車線のほうが平均速度が高いことも判明している。

続く第3章では人の渋滞が扱われている。火災の発生などでパニック状態に陥った群衆がドアに殺到し、混雑のために動けなくなってしまうような例だ。興味深いのは、ドアの前に障害物を置くことでかえって流れがスムーズになるというシミュレーション結果である。

第5章では雑多な渋滞が扱われているのだが、砂時計で1分を正確に測るのに必要な砂の量や容器の形を理論的に計算することが未だにできていないと知って驚いた。またブラジルナッツ現象といって、瓶の中に大小さまざまな粒を入れていると大きいものが上にくるという経験的な現象も、詳しい理由は不明なのだそうだ。なお、パイプの中を粒子が通るとき、パイプの直径を粒子の6倍以上にすると詰まりにくい。電車のドアでも、幅を広くすることで混雑時に人が動けなくなる現象を防ぐことができる。

次に理論を見ていこう。著者はモデルの重要性を繰り返し説いている。第1章は導入で、ここではリトルの公式が紹介されている。続く第2章では、渋滞学が扱う粒子の特徴を「自己駆動粒子」と呼び(逆に通常の力学で扱われる意思のない粒子をニュートン粒子と呼んでいる)、排除体積効果(2つの粒子が同時に同じ場所を占拠しない)を加味したセルオートマトンモデル(ASEP)を導入する。この単純なモデルを拡張していくことで、第2章で扱われた現象を再現していく。特に、メタ安定と呼ばれる状態(閾値を越えているのに相転移が起きない状態。車の台数が多いのに意外と流れているような状態。長くは続かず、やがて渋滞に陥る)を1つの仮定(一度止まった粒子は次回は進めない)で再現できるのには興奮した。第3章では、セルオートマトンを2次元方向に拡張している。

すばらしいと思うのは、著者がモデルの限界についても触れていることだ。第5章の粉粒体の例は、セルオートマトンのモデルは成り立たないだろうという。というのは、セルオートマトンが周囲との関係だけで自らの動きが決まる局所的な性質を持つのに対し、粉粒体の波の伝播は粉粒体自身の動きよりも圧倒的に速く、ネットワークを複雑化させるからだという。

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渡辺 慎太郎(na@10days.org)

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